ほとんどの人は、商品やサービスのセールスを受けると、無意識に抵抗感を持ちます。
その心理的な要因は、
●セールスや提案が「自分の選択をコントロールされる、自分の自由を制限される」と感じることによる反発(心理的リアクタンス)
●「損をしたくない、騙されたくない、搾取されたくない」という自己防衛の本能
●過去の経験から「セールス=しつこい」「=損するもの」という先入観が無意識に働き、話を聞く前から警戒・拒絶してしまう(古典的条件付け)
にあるといわれています。
交際費は、自社の事業を円滑にすすめ、商品やサービスの販売を促進する際の潤滑油として、会社にとって不可欠なものの一つです。
交際費の活用例としては、
例1)顧客を紹介してくれるキーマン顧客に、紹介の後、食事や贈答品を送りさらに紹介リピートにつなげる
例2)決定権のあるキーマンに年末年始や誕生日など節目を活用して継続的な接触機会をつくる
例3)印象に残る店舗・料理・ギフトなどで話題づくりやイベントを行いSNSで発信する
例4)セミナーや懇親会を開催し、営業色が強すぎない程度のプレゼントを用意する
交際費は、会社の販売活動の一環として有用で、特に中小企業にとってそのメリットは大きいです。
その反面、税務調査においては他の支出と比べて一段と厳しくチェックされる傾向があります。
ここでは、交際費の販売促進のメリットはいかしつつ、税務調査において否認されないようなきちんと処理となっているか確認していきます。
(1)交際費とは
交際費は、事業に関係ある者に対して、親睦を密にし取引関係の円滑な進行を図る目的で、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為を行うこととされています。(東京高裁平成15年9月9日判決)
具体的な相手先としては、
- 得意先や仕入先などの取引先の役員や従業員(将来的な見込み先を含む)
- 自社の役員、従業員、株主及びその家族や親族
具体的な目的としては、
- 既存の取引先に対しては、取引を継続してもらう目的
- 取引がない相手先に対しては、新しく取引を開始してもらう目的
- 自社の役員・社員に対しては、業務の慰労によりモチベーションをあげてもらう目的
具体的な接待行為としては、
- 接待/供応・・飲食や酒席などをともにして相手をもてなすこと
- 慰安・・・・・従業員や取引先などの労をねぎらうこと
- 贈答・・・・・お中元・お歳暮、手土産など相手にプレゼントを贈ること
相手先、目的、行為がこれらにあてはまる場合には交際費となります。
(2)交際費と似て非なる支出
次の支出は交際費に類似する部分はありますが、それぞれは別の処理区分となります。
① 寄付金
事業関係者とはいえない相手先への金銭や物品贈与は寄付金で処理します
(例)社会事業団体、政治団体、神社・仏閣
② 値引き・割戻し
得意先に対して売上高等に比例して支出する金銭は売上値引きや割戻で処理します
③ 広告宣伝費
不特定多数の人に対して宣伝的効果を意図して行う支出は広告宣伝費で処理します
(例)抽選により一般消費者向け行う金品を交付、旅行、観劇等に招待する費用
一般消費者に対して行う金品引換券付販売に伴う金品の交付費用
一般消費者に対して行う商品の購入に応じた景品の交付費用
取引先等への見本品、試用品の供与費用
自己製品や商品に関してモニターとして協力した一般消費者への謝礼費用
④ 福利厚生費
社内行事の実施に伴う支出は福利厚生費で処理します
(例)創立記念日、国民祝日、新社屋落成式等に際して社員等に概ね一律に供与される通常の飲食費用
社員等又はその親族等の慶弔、禍福に際して一定基準により支給する費用
従業員の食事代や昼食補助の負担で本人負担が半額以上でかつ補助額が月額3,500円以内のもの
⑤ 給与
従業員等に実質的に経済的利益が生じる場合は給与として処理します
(例)自社製品や商品等を原価以下で従業員等に販売した場合の原価との差額
機密費など名義にかかわらずその法人の業務のために使用したことが明らかでない支出
常時支給される昼食等の費用(福利厚生費とならないもの)
⑥ 会議費
会議に伴う弁当や茶菓子など通常要する費用は会議費として処理します
社内に適切な場所がない場合には、レンタル会議室やホテル、レストランの賃借料や飲食も会議費で処理できます
⑦ 10,000円以下の社外飲食費
令和6年改正により1人当たり10,000円以下の社外飲食費は交際費から除外できます
なお令和5年3月31日までは一人当り5000円以下が交際費から除外されていました
一般的には会議費で処理されています
(3)交際費を損金とできる限度額
交際費は、会社の大小によって損金にできる範囲が変わります。
会社の大小は資本金が1億円以下かそれ以上かによって区分されます。
① 資本金1億円以下の法人は、接待飲食費の50%又は交際費年間総額800万円のどちらか多い金額までを法人が選択できます
② 資本金が1億円超から100億円以下の法人は、接待飲食費の50%までが限度となります
③ 資本金が100億円超の法人は、全額損金にできません
例えば、資本金1億円以下の法人が、交際費を3000万円、うち接待飲食費を2000万円、と処理した場合には、接待飲食費の50%を選択する方が有利となります。
・交際費年間総額の上限 800万円
・接待飲食費50%の上限 1000万円
接待飲食費は、取引先や仕入先など社外関係者が参加する飲食を伴う接待に限定されます。社内のみの飲食や贈答品といった支出は含まれず、交際費よりも範囲が狭くなっていますので注意が必要です。
(4)税務調査での指摘ポイント
① 社長や役員の私的な支出となっていないか
交際費は、「事業と関係のある者」に対する支出となる飲食や贈答などである必要があります。
社長や役員が、友人や家族と行った個人的な会食、ゴルフなどは、交際費とはなりません。
中小企業の場合、もとからの友人や親族が顧客となったり取引先となったりすることもありますし、顧客を紹介してくれることもあります。このような関係性があるならば相手先をきちんと明示して交際費として処理することも可能ですが、このような関係性は無く今後も全く見込みがないと考えられる相手先であれば、税務調査で否認される恐れがあります。
社長や役員の遊行費とされると、役員報酬とされ経費処理の否認と源泉徴収不足というダブルパンチとなる可能性があります。明らかに取引先となりえない社外の相手先との飲食などは交際費としない処理が賢明です。
交際費は「社長や役員の私的な支出」ではないかと調査官は先入観を持ちがちです。
疑いをかけられないように領収証や帳簿等に「相手方」や「関係や目的」をきちんと裏書して記録しておくことが重要です。
③交際費から除外できる社外飲食費
「上記(2)⑦ 10,000円以下の社外飲食費」は、交際費と支出の内容を同じくするものですが、一人当りの支出額を10000円と低額にすることでから交際費から除外が認められる特例です。
従って、「10,000円以下の社外飲食費」は参加人数を頭割りして1人当たりの支出額が10,000円以下になっているかがポイントとなります。
1人当たりの支出額が10,000円を超えている場合は、交際費となり総額による制限を受けることになりますが、既に交際費の総額が損金計上限度を超えている場合には、そのまま否認となりますので注意して下さい。
領収書や帳簿等に記載すべき内容は、
✓飲食等を行った年月日
✓飲食等に参加した事業関係者等の氏名または名称と自社との関係
✓飲食等の参加人数
✓その飲食等の支出額、飲食店等の名称と所在地
✓その他必要な事項
なお一般的には、飲食店が発行する領収証等には利用年月日、店名、支払金額が記載されていることから、次の事項を裏書きして整理保存することも認められます。
✓飲食等に参加した事業関係者等の氏名または名称と自社との関係
✓飲食等の参加人数
(5)税務調査の対策
交際費は税務調査において重点チェックを受けやすい費目です。
交際費として処理された科目だけではなく、前述の「(2)交際費と似て非なる支出」に交際費となるものが紛れていないか、損金とするための領収証等への記載がきちんとなされているか、損金計上の限度額を超えていないか、こと細かにチェックされます。
税務調査は、証拠書類を中心にチェックされますので、これらの整理保存が重要ですので、飲食店の領収書等に次の事項を裏書きしておくことをルール化しておくことが必要です。
✓飲食等に参加した事業関係者等の氏名または名称と自社との関係
✓飲食等の参加人数
交際費も会議費処理できる「10,000円以下の社外飲食費」も同様に整理しておくことで、両方の費目についての税務調査に耐えられる書類となります。
交際費の税務調査では、証拠書類のチェックに加えて、「相手方との関係は?」、「接待の目的は?」、「個人的なつきあいではないか?」といった質問を調査官から受けることもあります。
調査官が、領収書等への記載に不備があり、会社の説明に不審な点がある判断する場合には、その相手先にまで調査が及ぶ「反面調査」につながる恐れがあります。
自社の不手際から「反面調査」となると相手先の信用を失いかねませんので充分注意して下さい。
2年、3年前の接待について細かいことは忘れてしまうことも多いと思います。
交際費を支出があった際には、時間を置かず証拠書類を揃え裏書しておくことをおすすめします。