「休業(休眠)」という選択肢
せっかく作った会社を解散・清算しなければならない——そう考えているなら、少し待ってください。状況によっては、「休業(休眠)」という選択肢で十分に対応できる場合があります。
解散・清算には多くの手間と費用がかかります。一方、休業(休眠)であればその負担をかなり抑えることが可能です。まずは解散・清算の手続きがどれほど大変かを確認してみましょう。
■ 解散・清算の手続き
【STEP1:解散】 (1) 株主総会で解散決議 (2) 解散・清算人選任の登記申請 <法務局> (3) 解散の届出 <税務署等> (4) 財産目録・貸借対照表の作成と承認 (5) 解散確定申告書の提出 <税務署等>
【STEP2:清算】 (6) 債権者へ公告・通知 <官報公告> (7) 会社財産の換価・債権取り立て・債務の弁済・残余財産の確定 (8) 清算確定申告書の提出 <税務署等> (9) 株主への残余財産の分配
【STEP3:結了】 (10) 決算報告書の作成と承認 (11) 清算結了の登記申請 <法務局> (12) 清算結了の届出 <税務署等>
[1] 休業(休眠)にするメリット
解散・清算を考えている理由が「赤字なのに税金がかかって損だから」という場合、休業(休眠)でも同じ目的を達成できます。
会社経営者であればご存じのとおり、赤字でも「法人住民税の均等割」という税金が発生します。資本金等が1,000万円以下の場合、年間7万円が課されます(資本金等が多いほど高額になります)。詳しくは「赤字でもかかる税金はある」をご覧ください。
休業(休眠)にすると、この均等割が停止されます。これが最大のメリットです。 ※都道府県・市町村によって取扱いが異なる場合があります。
また、解散・清算では専門家への報酬として40万円以上かかるのに対し、休業(休眠)はほぼ費用がかかりません。さらに、将来的に事業を再開したい場合でも、手続きが簡単なのでスムーズに動き出すことができます。
[2] 休業(休眠)にして困ること
休業(休眠)にもデメリットはあります。
まず、申告義務は免除されません。休業中に二期連続で確定申告書を提出しないでいると、青色申告の承認が取り消されることが多いです。再開の可能性があるなら、課税所得0として申告書を提出しておくことをおすすめします。青色申告の承認取消し自体に罰則はありませんが、繰越欠損金の控除や各種特典が受けられなくなります。再開するつもりが全くないなら、完全に放置しても実害はありません。
次に、登記の問題があります。役員に変更があった場合などは登記義務が生じ、怠ると罰則の対象になります。ただし、登記せずに12年間放置すると法務局が職権でみなし解散を行い、さらに3年放置すると清算結了・消滅となります。つまり、合計15年放置すれば、法務局が無償で会社を消滅させてくれるとも言えます。罰則規定があるため「困ること」に分類しましたが、見方によってはメリットにもなり得ます。
[3] “事業を行っていない”状態にすれば休業(休眠)
休業(休眠)の状態とは、次の3つが「何もない」状態です。
人的設備 役員・正社員・パート・アルバイト・派遣社員など、事業活動に従事する人がおらず、規約上も代表者や管理人の定めがない状態。
物的設備 事業に必要な土地・建物・機械設備、事務所・事業所がない状態。残っている設備は処分・廃棄し、賃借している事務所は解約すればクリアできます。会社の預金口座もできれば解約し、売上の入金や各種引き落としが発生しない状態にしておきましょう。なお、自宅の一部を会社事務所としている場合は「物的設備あり」とみなされる可能性がありますが、事務所として一切使用していない旨を説明すれば、大抵は問題ありません。
事業の継続性 事業が事業年度を通じて継続的・定期的に行われていないこと。2〜3ヶ月程度の一時的な現場事務所・仮小屋などは継続性なしと判断されます。
この3つすべてが「なし」であれば、地方税法上、均等割は課されません。チェックリスト代わりに確認してみてください。”何もしない”ことが条件なので、難しくありませんよ。
[4] 休業(休眠)の手続きは難しくない
3つの条件を整えたら、手続きに移りましょう。解散・清算とは異なり、非常にシンプルです。
■ 休業(休眠)の手続きまとめ
(1) 休業届の提出 <税務署・都道府県税事務所・市町村> (2) 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書の提出 <税務署> (3) 健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届の提出 <社会保険加入事務所>
※(2)(3)は社員がいた場合のみ必要です。
専門家に依頼しなくても十分対応できる内容です。
休業届の書き方について補足します。届出先は複数に分かれますが、記入内容はほぼ同じです。
税務署へは、商号・所在地等の変更時に使う「異動届出書」に休業の旨を記入して提出します(休業届専用の書式はありません)。「異動事項等」欄に「休業」、異動年月日に「休業した日付」を記入します。
都道府県・市役所へも同様に「異動届出書」を使います。書き方は税務署と同じです。
提出が遅れた場合でも、その事業年度に事業を行っていなければ、期首の日付で「休業しました」と記入して提出すれば、その事業年度分の均等割から停止してもらえることが多いです。
なお、都道府県・市役所から「今後、再開の予定はありますか?」という質問書が届くことがあります。「再開の見込みなし」と記入して返送するだけで大丈夫です。
[5] 休眠起こしには注意
休業(休眠)した会社を再開させることを「休眠起こし」といいます。これには注意が必要です。
主なリスクは2点あります。
ひとつは、停止されていた法人住民税の均等割を遡って請求される可能性があることです。もうひとつは、連帯保証などの債務が引き継がれるリスクです。自分が経営していた会社であれば把握できていますが、他人の会社を引き継ぐ場合は当の本人も忘れていることがあり、注意が必要です。
会社の新規設立は以前と比べてずいぶん簡単になりました。一般的には、休眠起こしよりも新設のほうが手っ取り早いケースがほとんどです。休眠起こしは、新規設立と比べて明確なメリットがある場合のみ検討するようにしましょう。